かかりつけ薬剤師指導料が否定され、地域支援体制加算まで返還になったら薬局はいくら失うのか
薬局スタッフの家族に対して、かかりつけ薬剤師指導料を算定しているかどうかは、レセプトですぐ調べられます。
ターゲットを知っぼって、個別指導に呼んで、かかりつけ薬剤師の薬歴の不備があり返還となれば、地域支援体制加算まで否定される・・・。
そんな最悪のシナリオが発生しているという噂です。
はじめに

2010年代半ば、
薬歴未記載・薬歴遅延問題が表面化したとき、
多くの薬局、とくにチェーン薬局では
返還対応が現場崩壊レベルになりました。
対応の流れは、こうです。
対象患者すべてに
お詫びと返金のお知らせをはがきで送付来局できる患者には
窓口で現金返金来局できない患者には
振り込みによる返金対応その合間に
電話・クレーム・説明対応
当時は、
対象が薬歴記入が遅れた一部患者に限られていた
大手チェーンだった
地域支援体制加算のような
「薬局全体評価」の加算が絡んでいなかった
という恵まれた?条件があり、
それでもなお、対応は困難を極めました。
今回の記事は、
そのときの対応をベースに、最近話題の、
身内のかかりつけ薬剤師指導料により基準クリアした地域支援体制加算で、個別指導にてかかりつけ薬剤師指導料が返還となるケースについてです。
「もし今、かかりつけ薬剤師指導料が否定され、地域支援体制加算まで返還になったら何が起きるのか」
を、数字で再現するシミュレーションです。
不安を煽るためではありません。現場が実際に経験した“前例”をもとにした試算です。
「要件は満たしている」
「きちんとやっている」
かかりつけ薬剤師指導料や地域支援体制加算について、現場ではよく聞く言葉です。
しかし本当に考えるべきなのは、
グレーな判断で、その算定が否定されたとき、薬局はどれだけの損害を被るのか
という一点です。
今回は、現実的な前提条件をすべて明示したうえで、
返還金額はいくらになるのか
どんな事務負担が発生するのか
数字に出ない“人的損害”はどれほどか
を、順を追って整理します。
想定する薬局の前提条件(重要)

まず、話をぶらさないために
薬局の条件をはっきり固定します。
薬局の規模 現実的な門前薬局です
調剤基本料:1
処方箋応需枚数
1日:約50枚
1か月:1,200枚
1年:14,400枚
患者構成
半分は再来患者(同一患者)
年間の実患者数:7,200人
自己負担なし患者:10%
加算の状況
地域支援体制加算を算定
かかりつけ薬剤師指導料を算定
個別指導で
かかりつけ薬剤師指導料が否定その結果、
地域支援体制加算の算定根拠も否定直近1年分を返還
という想定
決して極端な設定ではなく、中小薬局では十分にあり得る条件です。
① 地域支援体制加算の返還額
調剤基本料1の薬局が算定できる地域支援体制加算は主に以下です。
地域支援体制加算1:32点
(今回は控えめに加算1で計算します)
年間返還額
👉 約460万円
これは、
罰金でも
一時的な出金でもなく
「売上そのものが消える」という意味を持ちます。
② 患者へ返す「窓口負担分」
返還対応では、
保険者への請求訂正
患者への自己負担分返金
の両方が必要になります。
ここでは、患者に実際に返す現金を計算します。
条件
負担なし患者:10% → 返金なし
残り90%が返金対象
自己負担割合は一律 3割負担 と仮定
(※高めに見積もっています)
患者返金額
👉 約124万円
※1割・2割負担が多ければ下がりますが、それでも数十万円規模になります。
③ 返金通知のはがき代
返金が必要な患者すべてに、何らかの説明通知は避けられません。
対象 (再来する人は店頭で告知できるという最善の設定)
再来患者を除いた 3,600人
郵便料金
通常はがき:85円
はがき代
👉 約30万円
※印刷費・作業に伴う人件費は含めていません。
④ 振込返金の手数料
返金方法は現実的に次のようになります。
半分は再来患者
→ 来局時に返金残り半分:3,600人
そのうち 半数が振込返金、半分はわざわざ取りに来てくれるという最善の設定
振込件数
振込手数料
1件 145円(かなり控えめ)
合計
👉 約26万円
⑤ ここまでの「最低限の損害」

| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 地域支援体制加算返還(売上減) | 約460万円 |
| うち、患者への返金 | 約124万円 |
| はがき代 | 約30万円 |
| 振込手数料 | 約26万円 |
| 合計 | 約516万円相当 |
半分以上の患者さんは、自動的に薬局に来てそのまま返金対応が完了するという、最善シナリオで516万円です。
対応にかかる人件費はタダという試算です。
※ここには
人件費
印刷費
電話対応コスト
スタッフのメンタル負担
は 一切含まれていません。
⑥ かかりつけ薬剤師指導料の返還は「本丸ではない」
今回の前提では、
地域支援体制加算を取るための
最低ライン程度のかかりつけ算定年間 約20回程度
と仮定しています。
仮にすべてが
かかりつけ薬剤師指導料(76点)だったとしても、
👉 金額としては軽微です。
問題はそこではありません。
だから計算にも入れてません。
問題は、15,200円返せばいいんでしょ→ふたを開けたら516万円という、鼻血が出るような金額だったということです。
⑦ 本当の問題は「波及」
かかりつけ薬剤師指導料が否定されると、
かかりつけの実績が不適切
→ 地域支援体制加算の算定根拠が崩れる
→ 薬局全体の加算が否定される
という、
致命的な波及が起こります。
特に、
職員家族
医療費無料・低負担層
に無理にかかりつけ登録を付けて最低ラインをかさ上げしていた構造は、レセプト上とても分かりやすく、疑義を持たれやすい形です。
⑧ 人件費は計算しない。その代わり何が削られるか

今回、人件費はあえて金額化しません。
なぜなら、この作業を担うのは、
薬局開設者
管理薬剤師
主要社員
であり、ほぼ確実にサービス残業・徹夜になるからです。
現場で起きること
日中は通常業務
閉局後に返還作業
深夜、場合によっては徹夜
翌日も通常営業
そして何より重いのが、患者からの問い合わせ・苦情対応です。
「不正だったんですか」
「信用できません」
「どういうことですか」
これが、連日・断続的に続きます。
結論:これは制度論ではなく、事業継続リスク

この試算で伝えたいのは、
地域支援体制加算を取るべきか
かかりつけを算定すべきか
という話ではありません。
グレーな算定をしてその算定が否定されたとき、薬局と人がどれだけ削られるか
という、事業継続リスクの話です。
リターン:月数十万円
リスク:500万円超+人的消耗
このバランスを見て、
「グレーでもやる価値があるか」
一度、冷静に考える材料になればと思います。
結論
歴史は繰り返さない。薬歴未記載問題はその後発生していません。
だが、韻を踏む。
別の大規模返還コースが待っているかもしれません。
このシミュレーションを通して伝えたいのは、
地域支援体制加算を取るべきか
かかりつけ薬剤師指導料を算定すべきか
という制度論ではありません。
その算定が否定されたとき、現場に何が起きるか
という、事業継続の話です。
2010年代の薬歴未記載問題と、
今回の
かかりつけ薬剤師指導料 × 地域支援体制加算。
制度も背景も違います。
同じことが、そのまま起きるわけではありません。
けれど、
一部の算定否定が全体に波及する
返還額よりも、
人のメンタルが削られる最後に残るのは
「誰も得をしない後始末」
この構図は、驚くほど似ています。
繰り返しになります。
歴史は繰り返さない。
だが、韻を踏む。
だからこそ、同じ韻を踏まないために、今、考えておく意味があります。
さらに踏み込んで知りたい方へ
この記事では、「返還になったら何が起きるか」を数字で示しました。
では、
なぜ
スタッフやその家族のかかりつけ算定が
ここまでリスクになるのかどこからが
制度上のグレーで
どこからが
実務上の地雷なのかすでに算定している場合、
どこを直せば致命傷を避けられるのか
これらを、2026年の制度状況を前提に整理した記事をnoteで公開しています。

ブログでは書ききれない、
個別指導の視点
レセプトでどう見えるか
「やってはいけない線」と
「まだ引き返せる線」
を、実務目線でまとめています。
同じ韻を踏まないための材料として、参考にしてもらえればと思います。

















