たまには他の薬局の調剤の様子でも見てみるか、と思った。
完全に職業病である。
一包化の無理な姿勢が祟ったのか、どうにも腰痛が治らない。
リハビリ目的で整形外科を受診し、初回なので「とりあえず」で処方されたのは、ロキソニンテープ。
まあ、初回あるあるだ。
処方箋を持って、門前薬局へ。
ここは初めて利用する薬局だった。
入店前から、私はマイナンバーカードを準備していた。
受付機に読ませる、あれである。
最近はこれをやるだけで、事務さんの仕事量が目に見えて減る。
同業者の端くれとして、ちょっとした気遣いのつもりだった。
それに気づいた受付の事務さんが、
「あ。ありがとうございま~す♪」
ここまでは、愛想がいいな、くらいの印象だった。
だが、話はここで終わらない。
カウンターの内側にいた別の事務さんが、
「カードありがとうござーま~す♪」
さらに、調剤室の奥から、
「ありがとうございまーす!!」
……あれ?
ここ、居酒屋だったっけ?
「いらっしゃいませー!」
「生一丁ー!」
「ありがとうございまーす!」
そんなフレーズが、脳内で勝手に再生される。
処方箋はロキソニンテープ。
出てくるのは湿布。
でも空気は完全に金曜夜の大衆酒場だった。
活気がある。
とにかく活気がある。
薬局として、これはどうなんだろう?
と一瞬思う。
でも、すぐに考え直す。
無言で流れるように受付され、最低限の言葉だけで処理される薬局も、確かに「効率的」だ。
だが、そこには人の気配がない。
この薬局は違った。
声がある。
反応がある。
誰かがちゃんと見ている感じがする。
少なくとも、
「マイナンバーカードを出したら、ちゃんと誰かが気づいてくれた」
という体験は、悪くなかった。
調剤待ちのあいだ、カウンター越しに調剤室をぼんやり眺めていた。
すると、裏口からいくつかの箱が入ってくる。
サイズ感、色合い
「あ、ありがとうござーます。来たよ~」の声
ああ、これ、たぶん出荷調製品だな、と同業者の勘が働く。
アモキシシリンとオーグメンチンがちらっと見えた。
事務さんが納品書を見ながら検品を始める。
ここで、まただ。
「ありがとうございま~す♪」
それを聞いていたのだろう。
分包機の前で一包化していた薬剤師が、ふっと顔を上げて、
「いつもありがとうございま~す!」
完全にコール&レスポンスである。
その瞬間だった。
ブーーン。ガシャン、ガシャン、と聞きなれた音で動く分包機。
一瞬――
本当に一瞬だが――
分包機が、焼き鳥を焼くコンロに見えた。
カウンターは客席。
調剤室は厨房。
事務さんはホール。
薬剤師は焼き場。
「皮、いきまーす!」
「はいよー!」
そんな世界線が、脳内に立ち上がる。
もちろん、ここは薬局だ。
焼き鳥は出ない。
出てくるのはロキソニンテープだ。
それでも、空気はもう完全に居酒屋だった。
こういうの、嫌いじゃない。
効率がどうとか、私語がどうとか、静謐さがどうとか、そういう議論は、たぶん正しい。
でもこの薬局には、
「人が人に向かって仕事している感じ」が、確かにあった。
誰かが何かを運べば、誰かが気づいて、誰かが声を返す。
それだけのことなのに、妙に記憶に残る。
腰はまだ痛い。
ロキソニンテープが劇的に効く気もしない。
それでも、焼き鳥コンロに見えた分包機の光景は、今日の診察よりも、はっきり覚えている。
たぶんまた、あの薬局を思い出す。
たまには、こういう薬局見学も悪くない。




















