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登録販売者制度が変えた薬剤師の役割|OTCと調剤の分断と保険外し議論の行方

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第1章 はじめに──薬剤師と登録販売者の分岐点

かつて薬剤師は、調剤室で処方箋に基づく調剤を行うだけでなく、ドラッグストアや薬局で市販薬(OTC薬)を販売し、生活者からの相談に答える存在でもあった。例えば、風邪薬、胃腸薬、鎮痛薬など、日常的に使われる一般用医薬品は薬剤師が対面で説明を行うことが当たり前だったのである。

しかし2009年、薬事法の改正によって「登録販売者制度」が創設されたことは、この図式を大きく変えた。それまで薬剤師が担っていたOTC販売の現場を、登録販売者が肩代わりできるようになり、結果として薬剤師は「調剤室にこもる」傾向を強めていった。

制度からすでに15年以上が経過している。いまやドラッグストアのOTC売場で薬剤師を見かけることは稀であり、逆に登録販売者が主体となって顧客対応を行う光景が常態化している。薬剤師は処方箋調剤に特化し、OTCを知らない薬剤師世代が増えている。これは単なる現場の風景変化ではなく、制度によって職能のあり方そのものが変容したことを意味する。

本章では、登録販売者制度の背景や狙いを整理し、なぜ薬剤師がOTCから遠ざかる構造が生まれたのかを振り返る。さらにその後の10年間で現場に何が起きたのかを、第2章以降で検討していく。

制度導入の背景──セルフメディケーション推進と人材不足

1. セルフメディケーション推進の流れ

2000年代、日本政府は「セルフメディケーション(自分の健康は自分で守る)」を政策的に推進していた。

背景には高齢化の進行と医療費の増大がある。軽度な不調まで医師の受診に依存すると、社会保障費が膨らみ続けるため、一部の薬は市販薬として購入し、生活者自身がセルフケアで対応できるようにしようという考え方だ【厚生労働省・セルフメディケーションの推進】

この流れのなかで「市販薬のアクセスをもっと広げること」が課題になった。当時は薬剤師不足が深刻で、特に地方ではOTC販売の担い手が足りなかった。

2. 薬剤師不足とドラッグストアの台頭

2000年代後半、ドラッグストア業界は急成長していたが、すべての店舗に薬剤師を常駐させることは人件費・人材供給の両面で困難だった。

厚生労働省の統計によれば、2000年代前半の薬剤師数は増加傾向にあったものの、調剤需要や病院勤務の需要に比べて供給は追いついていなかった。

3. 登録販売者制度の創設

こうした背景から、2009年の薬事法改正により「登録販売者」が誕生した。

  • 一般用医薬品のうち「第二類」「第三類」に分類される多くの薬については、薬剤師でなくても販売可能とする。

  • 登録販売者資格試験合格を経て、ドラッグストアや薬局で販売・相談対応を担える専門職として位置づける。

これにより、薬剤師は「第一類医薬品(スイッチ直後品など)」を扱う際や調剤業務に集中できるようになり、人材不足と人件費の課題を解消する狙いにそって分業化が進んだ。

4. 制度の意図と副作用

制度導入の意図自体は合理的であった。

  • 薬剤師不足を補う

  • 市販薬の販売網を拡大する

  • セルフメディケーションを推進する

しかし副作用もあった。それは、薬剤師がOTC領域から後退することで、OTCに触れない薬剤師世代が生まれてしまったということだ。

制度設計時には「薬剤師は調剤に集中し、OTCは登録販売者が担う」という役割分担が合理的に見えた。だが結果的に「薬剤師がOTCを知らない」という現場力低下が進んでいる。

第2章 制度施行後10年で起きた現場の変化

登録販売者制度が施行されてから、すでに10年以上が経過した。その間、薬局・ドラッグストアの風景は大きく変わった。制度導入の狙いは「薬剤師不足の補完」「セルフメディケーションの推進」だったが、現場ではそれ以上に大きな職能変化が生じている。

本章では、制度施行後に実際の現場で何が起こったのか、そして薬剤師・登録販売者双方にどのような変化があったのかを整理する。

1. 薬剤師がOTCから遠ざかる構造

制度導入以降、薬剤師の主な配置先は「調剤室」へと固定化された。ドラッグストアでも、処方箋応需のある店舗では薬剤師は調剤に専念し、OTC売場には顔を出さなくなった。

結果として、薬剤師のOTC知識が蓄積される機会が激減した。

  • 「熱の症状によく効く総合感冒薬はどれ?」

  • 「ナロンエースとナロン錠の違いは?」

  • 「便秘薬はいろいろあるけど、どれがマグミットに近くて、どれがセンノシドに近い?」

  • 「大人から子供まで使える風邪薬はどれ?」

こうした市販薬にまつわる基本的な相談にすら即答できない薬剤師が珍しくなくなっている。

これは制度設計上は合理的な役割分担のはずだったが、副作用として薬剤師の“OTC離れ”が進行したといえる。

2. 登録販売者の知識と存在感の拡大

一方で、登録販売者はOTC販売の第一線で顧客と接する立場に立ったため、必然的に知識が深まった。実務経験を通じて、添付文書の解釈や製品間の違いを肌で理解する登録販売者も多い。

このため現場では「OTCに関しては薬剤師より登録販売者のほうが詳しい」という逆転現象が起きている。実際に、OTC購入者の相談相手として「薬剤師」よりも「登録販売者」が相談相手だったといったケースが増えているといわれている。

薬剤師資格の有無よりも「現場で接している回数」が知識と信頼につながっているのだ。

3. 現場で生じているギャップ

この10年で、調剤薬剤師と登録販売者の間には明確なギャップが生まれた。

  • 薬剤師:調剤報酬請求・薬歴記載・相互作用チェックなど、保険調剤に特化

  • 登録販売者:市販薬の選び方、セルフメディケーション支援、生活者相談対応

その結果、患者から「市販薬と処方薬の違い」を聞かれた際、薬剤師が答えに窮し、登録販売者が実務的な解答をしている場面すらある。

この状況は「薬剤師なのにOTCを知らない」という不信感につながりかねない。制度が分断した結果、職能上の弱点を露呈してしまった形だ。

4. 患者の視点から見える課題

患者や生活者から見れば、「薬剤師と登録販売者、どちらに相談すればよいのか」がわかりにくい状況になっている。

  • 調剤薬局:薬剤師が処方薬に詳しいがOTC相談は弱い

  • ドラッグストア:登録販売者がOTCに詳しいが処方薬の背景は説明できない

特に高齢者や持病のある人が「処方薬と市販薬の飲み合わせ」を相談したい場合、薬剤師も登録販売者も十分に応じられないことがある。

5. 現場の声にみる実感

筆者が調剤薬局の現場で聞いた声でも、

  • 「お客さんに総合感冒薬の違いを聞かれても、答える自信がない」

  • 「この薬にはアリルイソプロピルアセチル尿素が入っているから眠くなりますよ、と登録販売者に教えられた」

  • 「処方薬は詳しいが、OTCは添付文書を開かないとわからない」

さらに補足すると、調剤薬局の薬剤師は処方箋に基づいて薬を渡すため、患者に対しては受動的な説明に終始する傾向がある。能動的に、星の数ほどある売り場の商品を「この症状ならこの薬が適している」と選択する訓練はほとんどなされていない。

そのため、OTCの市販名や配合成分が頭に入っておらず、患者から症状を伝えられても「では、どれを勧めたらよいか」を瞬時に判断できないことが大きな問題となっている。特にアリルイソプロピルアセチル尿素のように、処方薬では単体で出会わない成分は、調剤しか経験していない薬剤師が意識する機会すらないのが現状である。

まとめ

登録販売者制度の導入から10年以上。制度の合理性は認めつつも、現場では薬剤師のOTC知識が失われ、登録販売者がOTCの専門家として台頭する逆転現象が生まれた。

患者からすれば「薬剤師なのに市販薬に答えられない」という違和感を覚える状況もあり、制度設計の副作用が露呈している。

次章では、このような現場の変化を踏まえ、薬剤師が再びOTC知識を学ぶ必要性、そして制度の行方と「保険外し」議論がどのように関わるのかを論じていく。

第3章 薬剤師が学び直すべきOTC知識の必要性

第2章で見たように、登録販売者制度施行後10年以上の現場では「薬剤師のOTC離れ」が進み、逆に登録販売者がOTCの実務知識を積み重ねている。患者や生活者からすれば「処方薬と市販薬の違い」「セルフメディケーションにおける安全な薬選び」に答えてくれる人材を求めており、薬剤師がこの領域に疎いことは大きな不安要素となる。

そこで本章では、薬剤師がなぜ改めてOTC知識を学ぶ必要があるのか、そして具体的にどのような知識が求められているのかを整理する。

1. セルフメディケーション推進政策と薬剤師の責務

政府はセルフメディケーションの推進を繰り返し掲げている

【厚労省・セルフメディケーション推進】その中心にあるのは「生活者が軽度な不調を自分で判断し、市販薬で対応する」流れだ。

だが、市販薬は処方薬に比べて情報が断片的に伝わることが多く、自己判断による誤用・乱用のリスクが高い。ここで薬剤師の役割は単なる「調剤」にとどまらず、OTCも含めた安全な薬物療法の選択を助けることに広がっていく。

もし薬剤師がOTC知識を持たないままであれば、セルフメディケーション政策自体に薬剤師が貢献できないという逆説的な事態に陥る。

2. 患者のニーズは「処方薬+OTCの統合的な視点」

患者から寄せられる質問の多くは、処方薬と市販薬の両方にまたがっている。

  • 「病院でもらった薬と同じ成分が市販薬にあるの?」

  • 「今飲んでいる降圧薬と市販の風邪薬を一緒に飲んでもいいの?」

  • 「授乳中だけど、この市販の頭痛薬は大丈夫?」

こうした質問は、処方薬の知識だけでも、市販薬の知識だけでも不十分で、両者を統合的に理解していなければ答えられない。

ところが現状の薬剤師教育や現場では、処方薬に偏りがちで、市販薬の商品群や成分が頭に入っていないケースが多い。結果として、患者の素朴な疑問に即答できない薬剤師が増えてしまっている。

3. 具体的に求められるOTC知識

薬剤師に求められるOTC知識は、単に「商品名を覚える」レベルにとどまらない。重要なのは次の3点である。

  1. 成分ベースでの理解(これはおおむね問題ないが、処方薬にない成分には疎い)

    • 例:「頭痛薬に含まれるアリルイソプロピルアセチル尿素は鎮静成分で眠気が出る」

    • 例:「アルミノプロフェンは抗炎症作用があるが、空腹時には胃障害リスクがある」
      → 商品名ではなく成分から説明できることが必須。

  2. 処方薬との位置づけの違い

    • 例:「ロキソニンSは処方薬のロキソプロフェンと同成分。ただし市販薬では1日量が制限されている」「医療用とOTCでは禁忌が異なる」

    • 例:「酸化マグネシウムは処方薬と同じ成分だが、市販薬の錠数や用量は異なる」
      → 処方薬との比較を即答できることが信頼につながる。

  3. 患者背景に応じた選択肢の提示

    • 高齢者、小児、妊婦、授乳婦に対して安全なOTCはどれか

    • 持病(高血圧、糖尿病、肝腎機能障害)がある場合に避けるべきOTCはどれか
      → 単なる販売説明ではなく「能動的に最適な薬を選ぶ」訓練が求められる。

4. 登録販売者との補完関係を築くために

登録販売者は現場でOTC知識を磨いているが、処方薬の相互作用や病態理解については権限も教育も不十分だ。一方で薬剤師は処方薬に詳しいがOTCを知らない。

このギャップを埋めるには、薬剤師がOTC知識を学び直し、登録販売者と補完関係を築くことが不可欠である。

  • 登録販売者が「市販薬の商品特性」を説明

  • 薬剤師が「処方薬との相互作用」や「病態背景」を補足

この連携こそ、生活者にとって最も安全で信頼できる体制となる。

5. 学び直しが迫られる時代背景

さらに近年、処方薬のうちOTCと成分が重なる薬について「保険適用から外す」議論が進んでいる

そのとき薬剤師がOTCを知らないままでは、患者相談に対応できず、信頼を失うリスクがある。逆に、OTCを理解し能動的に提案できる薬剤師は「セルフメディケーション時代に不可欠な専門家」として存在感を増すだろう。

まとめ

薬剤師がOTCから遠ざかったこの10年は、現場力の偏りを生み、生活者からの信頼にも影を落としている。だが裏を返せば、いまこそ薬剤師がOTC知識を学び直す好機である。

  • 成分ベースで理解し、処方薬との比較を説明できる力

  • 患者背景を踏まえて最適な薬を選ぶ能動的な姿勢

  • 登録販売者との補完関係を築き、セルフメディケーションを支える役割

これらを身につけることで、薬剤師は再びOTC領域でも信頼を得ることができるだろう。そして、今後の「保険外し」議論にも耐え得る職能の幅を確立することができる。

第4章 OTC知識が求められる理由

登録販売者制度の施行によって薬剤師は調剤に特化し、OTCの現場から距離を置くようになった。しかし制度がいくら整備されても、患者や生活者の疑問は「制度の線引き」に従って発生するわけではない。むしろ日常の相談は、処方薬と市販薬の境界線を軽々とまたいでいる。ここに薬剤師のOTC知識が欠かせない理由がある。

1. 「市販薬と処方薬の違い」を知りたい患者

例えば、風邪をひいた患者がこう尋ねる場面は少なくない。

  • 「病院でもらったPL顆粒と、ドラッグストアに並んでいるパブロンはどう違うの?」

  • 「ロキソニンSと病院でもらったロキソプロフェンは、どっちが強いの?」

このような問いに対し、登録販売者は市販薬の添付文書をもとに説明することはできるが、処方薬との比較や背景病態を踏まえた助言までは難しい。一方で薬剤師は処方薬に精通しているが、市販薬の具体的な商品や特徴を知らなければ即答できない。

つまり患者が知りたいのは「販売区分」ではなく、「自分が今飲んでいる薬と比べてどうなのか」という実感レベルの情報である。この問いに応じられるのは、本来薬剤師であるはずだ。

2. セルフメディケーション推進と薬剤師の関与

政府は「セルフメディケーション」を推進し、軽度な体調不良は市販薬で対応するよう促している

しかし実際には、市販薬は成分数が多く、同じカテゴリーでも作用や副作用が異なる。患者が自己判断で選んでしまうと、飲み合わせのリスクや過剰摂取を招く可能性がある。

ここで薬剤師がOTC知識を備えていれば、

  • 「処方薬と併用しても問題ないか」

  • 「この患者背景ならこちらを選ぶべき」
    といった具体的な助言ができる。

制度設計が想定している「セルフメディケーションの安全な実践」は、薬剤師がOTCを理解してはじめて実効性を持つのである。

3. 制度上の役割を超えた知識が求められる

制度上は「薬剤師=調剤」「登録販売者=OTC販売」と整理されている。(明確な線引きはないが、事実上そのような運用となっている。)

だが現場で求められるのは、それ以上の知識だ。

  • 登録販売者がカバーしきれない「処方薬との相互作用」

  • 患者の既往症や服薬歴を踏まえた「リスクの見極め」

  • 商品ラインナップの違いを踏まえた「最適な選択肢の提示」

これらは薬剤師の職能の中核にあるべき領域である。

OTCを知らない薬剤師は「制度上は間違っていない」とはいえ、実際の患者の疑問に答えられず、信頼を失う危険がある。制度の分断を乗り越えて、処方薬と市販薬を横断的に説明できる知識こそが、薬剤師に求められる真の専門性である。

まとめ

薬剤師がOTCを学び直す必要性は、単なる「販売権限の問題」ではない。患者が求めるのは「自分に最も合った薬を選ぶための助言」であり、制度を超えた知識がそこに必要となる。

セルフメディケーション推進が進むなかで、薬剤師がOTC知識を欠いたままでは政策の理念すら空洞化してしまう。逆に言えば、OTCを学び直し「処方薬+OTCの統合的な視点」を提供できる薬剤師は、これからの時代に欠かせない存在となる。

第5章 処方薬のOTC類似成分に関する保険外し議論

薬剤師がOTC知識を求められる背景には、現場の相談ニーズだけでなく、国の医療制度改革がある。とりわけ近年注目されているのが「処方薬のうちOTCと成分が重複する薬を、保険給付の対象から外す」という、いわゆる「保険外し」議論だ。これは薬剤師の役割を再定義するほどの大きな制度転換であり、無視できないテーマである。

1. 政府・与党の方針

政府・与党は2026年度以降、段階的に「OTC類似薬」を保険適用から除外する方針を掲げている。背景には増え続ける社会保障費がある。厚生労働省の試算では、医療費は2040年までに60兆円規模に達するとされ、抑制策は避けられない状況だ。

このため、風邪薬・湿布薬・胃薬など「市販薬でも代替可能」とされる処方薬について、医師が処方しても公的保険での給付対象外とする方針が示された

【Pharma-Manage note記事】

年間で数千億円規模の医療費削減効果があると見込まれている。

2. 医師会の反対と懸念

しかし、この方針には強い反対の声が上がっている。日本医師会は「高齢者や子育て世代、慢性疾患患者の負担が過度に増える」として反対声明を出した

【日本医師会オンライン声明】

例えば、高齢者が湿布薬を長期で使用する場合、処方薬であれば1割負担で済むことも多い。しかし保険適用が外されれば、市販薬を定価で購入しなければならない。結果的に受診控えや服薬中断を招き、かえって病状が悪化するリスクが指摘されている。

3. OTCの方が高額になる現実

さらに問題なのは、OTCが必ずしも安価ではない点だ。京都民報の報道によれば、処方薬では数百円で済む薬剤費が、市販薬では10〜40倍に跳ね上がるケースもある

【京都民報】

患者負担の増大は単なる「節約」ではなく、「必要な薬に手が届かなくなる」事態を生む。これは医療制度の根幹である「アクセスの公平性」に関わる重大な問題である。

4. 制度変更のリスク

制度変更の大義は「医療費削減」だが、短期的な数字の削減に目を奪われれば、長期的に医療費が増大する逆効果すらあり得る。

  • OTCへの切り替えで受診控えが進み、重症化リスクが増す

  • 市販薬の誤用・乱用が増え、健康被害や救急搬送が増加する

  • 結果として、重症化や事故による医療費がかえって膨張する

こうした「制度の副作用」はすでに医師会や患者団体から繰り返し指摘されている。

5. 薬剤師へのインパクト

薬剤師にとっても、この「保険外し」は大きな意味を持つ。

  • 患者から「処方薬が保険で出なくなったが、市販薬で代用できるか?」という相談が必ず増える

  • 処方薬とOTCを比較し、成分・用量・適応を瞬時に説明できる知識が求められる

  • 登録販売者だけでは対応しきれない「処方薬との橋渡し役」として薬剤師の存在感が問われる

OTC知識を欠いた薬剤師では、この波に対応できない。逆にOTCを理解し能動的に説明できる薬剤師は、制度変革の中で「なくてはならない専門家」として信頼を獲得することになる。

まとめ

処方薬のOTC類似成分に関する保険外しは、単なる制度改定ではない。医療費削減の名のもとに進められるこの政策は、患者負担の急増と医療アクセスの低下を招きかねない。そして同時に、薬剤師に対して「OTCを知らないままでいいのか」という根源的な問いを突きつけている。

次章では、このような制度改革の中で薬剤師がどのような姿勢を持つべきか、「今後のあり方」を考察する。

第6章 今後の薬剤師のあり方

OTC類似薬の保険外し議論は、医療費抑制のための政策にとどまらず、薬剤師の存在意義を根本から問い直す出来事である。制度が変化するなかで薬剤師は、従来の「調剤に特化した役割」だけでは不十分となり、OTCを含めた幅広い知識と相談対応力が求められる。ここでは、これからの薬剤師が進むべき方向を整理する。

1. OTCを知らない薬剤師では対応できない

これまで薬剤師は「処方箋を正確に調剤し、薬歴に記録し、相互作用を確認する」ことに職能を限定されてきた。しかしOTC類似薬が保険適用外となれば、患者から必ずこうした質問が寄せられるだろう。

  • 「処方薬が保険で出なくなったけど、代わりにどの市販薬を買えばいい?」

  • 「子どもに飲ませたいが、処方薬と市販薬で成分は違うの?」

こうした問いに即答できなければ、薬剤師の信頼は大きく揺らぐ。OTCを知らない薬剤師では、制度改定後の現場ニーズに対応できないことは明白である。

2. 処方薬とOTCをまたぐ知識の必要性

薬剤師が担うべきは、単なる「薬の受け渡し役」ではなく、「処方薬とOTCを横断的に理解し、患者に最適な選択肢を示す専門家」である。

  • 成分や含量の違い

  • 剤形や1日量の制限

  • 高齢者・小児・妊婦など対象患者の違い

これらを説明できることが、制度変化後の薬剤師に求められる。例えば、酸化マグネシウムを処方で長期使用していた患者が保険外しの対象になった場合、「市販の酸化マグネシウムは何錠必要か」「どのブランドを選べばよいか」を即座に助言できる薬剤師こそが信頼される。

3. 登録販売者との補完関係

一方で、登録販売者はOTC現場での商品知識や接客経験を強みにしている。薬剤師がOTCを完全にカバーしようとするのではなく、両者の補完関係を築くことが重要だ。

  • 登録販売者:商品群の特徴や生活者目線の相談対応

  • 薬剤師:処方薬との橋渡し、相互作用、患者背景を踏まえたリスク管理

この協働体制を整えれば、薬局やドラッグストアは「制度改定後も安心して相談できる場」として存在感を高められる。

4. 能動的に薬を選ぶ姿勢の獲得

調剤薬局の薬剤師は、処方箋に従って薬を交付する「受動的」な業務が中心であった。しかし、今後は「患者の症状に対して最適な薬を提案する」という能動的な姿勢が不可欠になる。

これは、これまでの薬剤師教育にはなかった領域である。商品名や成分群を頭に入れ、状況に応じて選択肢を提示する力が問われる。能動性を欠いた薬剤師は、制度変化のなかで存在価値を失いかねない。

5. 社会的役割の再定義

薬剤師はこれから、「調剤報酬を算定する専門職」から、「セルフメディケーション時代の医薬品アドバイザー」へと役割を広げる必要がある。

  • 医療費抑制と患者負担のバランスを説明する役割

  • 医師・登録販売者・患者をつなぐハブ機能

  • 医療アクセスが変化する中での安全確保

これらを果たすことで、薬剤師は制度改革を脅威ではなく「役割を広げる好機」として活かすことができる。

まとめ

保険外し議論は、薬剤師にとって危機であると同時に、専門性を再定義するチャンスでもある。

  • OTCを知らない薬剤師では立ち行かない

  • 処方薬とOTCをまたいだ知識が不可欠

  • 登録販売者との補完関係が求められる

  • 能動的に薬を選ぶ姿勢が信頼につながる

これらを実践できる薬剤師こそが、制度変化のなかで「患者から選ばれる存在」となっていく。

次章では、本書全体を振り返り、制度の変化と薬剤師の未来を総括する。

第7章 まとめ

本書では、登録販売者制度の導入からOTC知識の空洞化、そして保険外し議論に至るまで、薬剤師を取り巻く環境の変化を追ってきた。ここで改めて論点を整理し、薬剤師の未来に向けた指針を提示しておきたい。

1. 登録販売者制度がもたらした構造変化

2009年の登録販売者制度導入は、薬剤師をOTC販売から遠ざけ、調剤業務に特化させる転換点となった。結果として、OTCを知らない薬剤師世代が登場し、逆に登録販売者が現場知識を積み重ねていった。制度設計上は合理的だったが、患者の素朴な疑問に答えられない「現場力の空白」が生じたことは否定できない。

2. OTC知識の再学習が不可欠である理由

患者の関心は「市販薬と処方薬の違い」「いま飲んでいる薬との飲み合わせ」「自分や子どもに適した薬はどれか」といった実践的な問いに集中している。制度上の役割分担では、こうした疑問に十分応えられない。

セルフメディケーション推進の旗の下で、薬剤師がOTCを知らないままであれば、制度自体が形骸化してしまう。むしろ薬剤師は、処方薬とOTCをまたいで説明できる「統合的アドバイザー」としての職能を取り戻す必要がある。

3. 保険外し議論が突きつける現実

2026年度以降に予定されているOTC類似薬の保険外しは、薬剤師の役割をさらに厳しく問い直す。医療費削減という大義はあるが、患者負担増や受診控えのリスクが強く懸念されている。

このとき薬剤師が「処方薬の代わりに市販薬でどのように対応できるか」を助言できなければ、制度改定後の現場に適応できない。逆にOTC知識を備えた薬剤師は、患者の不安を解消する唯一の専門家として信頼を集めるだろう。

4. 登録販売者との補完と協働

OTC現場の第一線に立つ登録販売者と、処方薬や病態の理解に強みを持つ薬剤師。両者は対立する存在ではなく、互いに補完し合うパートナーであるべきだ。

  • 登録販売者が「商品知識と生活者視点」を提供する

  • 薬剤師が「処方薬との比較やリスク管理」を補足する

こうした協働体制が整ってこそ、患者にとって安心できるセルフメディケーション支援が実現する。

5. 薬剤師に求められる新しい姿勢

これからの薬剤師に不可欠なのは、処方箋に従う受動的な業務を超え、能動的に「この患者に最適な薬」を選び出す姿勢である。

  • 商品群や成分を頭に入れ、即時に選択肢を提示できる力

  • 患者背景を踏まえたリスク評価力

  • 社会的変化に応じて職能を広げる柔軟性

これらを備えることで、薬剤師は制度改革の波を逆に活かし、「患者から選ばれる存在」として生き残ることができる。

結論

登録販売者制度は薬剤師をOTCから遠ざけた。さらに保険外し議論は、薬剤師に「このままでいいのか」という問いを突きつけている。

だが危機は同時に、進化の契機でもある。薬剤師がOTC知識を再学習し、登録販売者と協働して患者に最適な薬物療法を提供する姿勢を持てば、制度変化は脅威ではなく、専門性を再定義するチャンスとなる。

制度に縛られるのではなく、制度を超えて患者の生活に寄り添う専門家へ。
これこそが、次の時代に薬剤師が果たすべき役割である。