はじめに
厚生局から通知が届いたのは、ある蒸し暑い午後だった。
厚生局からの封筒を開けたツルタの目に飛び込んできたのは、あの文字。
「新規個別指導 実施のお知らせ」
対象患者は10名。これは後日FAXで届くという。
指定日と場所、持参物のリストがびっしり書かれている。
ツルtは声にならない声を漏らした。
「うわぁ……ついに来た……」
当日、会議室にて
厚生局の会議室に通されると、スーツ姿の指導官他5名程度が待ち構えていた。
テーブルの上にはツルタが必死に準備した薬歴の束。
もう逃げ場はない。
「それでは、始めます」
淡々とした声で指導官が口火を切った瞬間、ツルタの心臓は心室細動かと思うばかりの動悸に襲われた。
パワハラ面談、開幕
指導官が薬歴を1枚めくり、冷静に質問する。
「えっ……いや、その、患者さんがそうおっしゃっていたので……」
「え、えっと……」
返答につまるツルタ。
その横で指導官は別の薬歴を取り出す。
「……(ぐぅの音も出ない)」
「いつもと同じって、いつもはどうなの?」
「体調変わらずって、何から変わってないの?」
矢継ぎ早の質問。机を叩くような鋭い言葉。
ツルタの頭の中で「これ、完全にパワハラ面談じゃん…」という叫びがこだまする。
汗と沈黙
背中を流れる汗。額から滴る汗。
目の前の薬歴がにじんで読めない。
口を開いても声にならない。
「副作用なしとなってるが、何のどんな副作用がないの?」
「患者のアドヒアランス良好となってますが、薬歴のどこに確認したことが書かれてますか?」
次々に突きつけられる質問。
まるで裁判の尋問のように、否応なく迫ってくる。
「……すみません。記録が不十分でした……」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
そのあと、誤って済むとかそういうもんだではなく、薬剤師としてどのように向き合って指導してきたのですか?などなどお説教が続く。
お説教効くだけで許してもらえるなら、何時間でも聞きますよという心境だ。
終了後
指導が終わり、ツルタはぐったりと椅子に沈んだ。
「新規個別指導って、こういうことなのか……」
疲労感と同時に、次なる恐怖が襲ってくる。
もし今回の個別指導で管理が不十分と判断されれば、再指導?今度は対象患者30人!?
ツルタは会議室を出ながら、足元がふらつくのを感じていた。
まとめ
新規個別指導は“新規開局薬局の通過儀礼”に思えるかもしれないが、開設者変更でも実施されます。油断していることや、開局してから年月が経てばそれなりに患者数も多く、通常の新規個別指導よりも多くの労力を要します。
そして実際はパワハラ面談のような鋭い質問の連続。
ちゃんと返せないと、どんどん追及が厳しくなります。
準備不足で臨めば、精神的にも大きなダメージを受けることになる。
次回予告
次回の第3話では「再指導で対象患者が30人に増える悪夢」を描きます。
👉 さらに詳しく、「どんな質問が飛んでくるのか」「どう答えれば再指導を回避できるのか」をまとめた 実践マニュアル を有料noteで公開中です。
無料部分だけでもかなりボリューミーですので、初めての方は胃もたれ注意です(笑)
個別指導を「他人事」だと思っている方こそ、明日のためにぜひ読んでおいてください。
第一話はこちら↓
「個別指導?何それ美味しいの?――開設者変更で突然“新規個別指導”に呼ばれる管理薬剤師の悲劇」