処方箋は1.1%減ったのに、調剤医療費は3.8%増えた。薬局で何が起きている?

処方箋が減ったらしい。でも調剤医療費は増えている
厚生労働省から、2025年度(令和7年度)の「調剤医療費(電算処理分)の動向」が公表されました。
数字を見ていて、ちょっと気になるところがありました。
処方箋枚数が減っています。
2025年度の処方箋枚数は、
8億8,669万枚。前年比1.1%減。
ところが、その一方で調剤医療費は、
8兆7,242億円。前年比3.8%増。
なのです。
さらに処方箋1枚あたりの調剤医療費を見ると、
9,372円 → 9,839円。5.0%増。
処方箋は減っている。
なのに、調剤医療費は増えている。
なんだか逆方向です。(厚生労働省)
そこで今回は、
薬局で何が起きているのか?
厚労省のデータをもう少し掘ってみます。
まず数字を並べてみる
2024年度と2025年度を比較するとこうなります。
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 調剤医療費 | 8兆4,008億円 | 8兆7,242億円 | +3.8% |
| 処方箋枚数 | 8億9,634万枚 | 8億8,669万枚 | -1.1% |
| 1枚あたり調剤医療費 | 9,372円 | 9,839円 | +5.0% |
| 技術料 | 2兆3,251億円 | 2兆3,730億円 | +2.1% |
| 薬剤料 | 6兆592億円 | 6兆3,343億円 | +4.5% |
| 注射薬の薬剤料 | 6,644億円 | 8,137億円 | +22.5% |
厚労省のいう「処方箋枚数」は、調剤報酬明細書に記録される受付回数の合計です。また、ここで扱っている8兆7,242億円は、今回公表された電算処理分の数字です。
つまり、ものすごく雑に言えば、
薬局に来た処方箋の枚数は約1%減った。
でも、処方箋1枚あたりの金額は約5%増えた。
その結果として、全体の調剤医療費は3.8%増えています。
実は「5年ぶり」の処方箋減少
処方箋枚数の前年比をさかのぼると、少し興味深いです。
2020年度はコロナ禍の影響もあり、前年比9.2%減。
その後は、
2021年度 +4.8%
2022年度 +4.4%
2023年度 +6.0%
2024年度 +1.2%
と増加が続いていました。
そして2025年度。
-1.1%。
電算処理分の統計では、2020年度以来、5年ぶりに前年を下回ったことになります。
とはいえ、これだけで、
「これから処方箋はずっと減っていく」
とは言えません。
1年間の数字だけで構造的な減少局面に入ったと判断するのは早いでしょう。
ただ、薬局で働いている立場からすると、
「処方箋枚数は増え続けるもの」という前提が、少し怪しくなってきた数字
としては気になります。
では、なぜ調剤医療費は増えたのか?
ここからが本題です。
調剤医療費は、
8兆4,008億円から8兆7,242億円へ。
3,234億円増えています。
内訳を見ると、技術料は479億円増。
一方、薬剤料は、
6兆592億円から6兆3,343億円へ。
2,751億円増。
計算すると、調剤医療費全体の増加額3,234億円のうち、約85%に相当する金額が薬剤料の増加です。
つまり今回、
「調剤医療費が3.8%増えました」
という数字だけを見ると、薬局に入るお金が大幅に増えたようにも見えます。
でも、中身を見るとかなり違う。
増えた部分の中心は、
薬剤料です。
特に目立つのが「注射薬+22.5%」
さらに薬剤料の内訳を見ると、かなり目立つ数字があります。
注射薬です。
2024年度は6,644億円。
2025年度は8,137億円。
1年間で1,493億円増。前年比22.5%増です。
処方箋1枚あたりで見ても、注射薬の薬剤料は前年比23.8%増でした。
調剤医療費全体の増加額が3,234億円ですから、金額を単純比較すると、注射薬の増加分だけで全体増加額の約46%に相当します。
もちろん、
「注射薬だけが調剤医療費増加の原因」
という意味ではありません。
ただ、今回の増加を考えるうえで、無視できない大きさなのは確かです。
内服薬では「長期処方」が効いていそう
では、私たちが普段もっともよく目にする内服薬はどうでしょう。
こちらも興味深いです。
内服薬の処方箋1枚あたり薬剤料は前年比4.0%増でした。
厚労省は、この増加を3つに分解しています。
| 要素 | 前年比 |
|---|---|
| 処方箋1枚あたり薬剤種類数 | +0.3% |
| 1種類あたり投薬日数 | +3.2% |
| 1種類1日あたり薬剤料 | +0.4% |
この数字を見ると、かなり分かりやすい。
薬の種類が大幅に増えたわけではありません。
1日分の薬剤料がものすごく高くなったわけでもありません。
一番動いているのは、
投薬日数です。
実際、内服薬1種類あたりの投薬日数は、
27.3日 → 28.2日
へ延びています。
要するに、
1回来局したときにもらう薬が、少し長くなっている。
これなら、
「処方箋枚数は減っているのに、1枚あたりの薬剤料は増える」
という現象とも整合します。
薬局で働いていると、
「最近、長期処方増えたよね」
という感覚を持っている人もいるかもしれません。
少なくとも今回の全国データでは、投薬日数が延びていることは確認できます。
「処方箋が減った=薬を使わなくなった」でもない
ここも注意したいところです。
処方箋枚数が1.1%減ったからといって、
「患者さんが薬を使わなくなった」
とは言えません。
1回の処方日数が長くなれば、同じ患者さんでも年間の来局回数は減ります。
28日処方だった人が56日処方になれば、単純には薬局へ来る回数は半分になります。
そのため、
処方箋枚数と実際に使用される医薬品の量は同じものではありません。
今回のデータはむしろ、
「枚数」だけを見て薬局市場を判断すると、実態を見誤る可能性がある
ことを示しているように思います。
そして「調剤医療費が増えた=薬局が儲かった」でもない
逆方向の誤解もあります。
調剤医療費が3.8%増えて、
8兆7,242億円になった。
この数字だけを見ると、
「薬局業界、まだまだ儲かってるじゃん」
と思う人もいるかもしれません。
でも、そう単純ではありません。
8兆7,242億円のうち、6兆3,343億円は薬剤料です。技術料は2兆3,730億円でした。
薬剤料は、薬局の利益そのものではありません。
高額な医薬品を扱えば調剤医療費の総額は大きくなりますが、その分、薬局では医薬品を仕入れなければなりません。
高額薬が増えれば、
仕入れ資金、在庫金額、廃棄リスクなどの負担も大きくなります。
ですから、
「調剤医療費が増えた=薬局の利益が3.8%増えた」
という読み方はできません。
むしろ気になるのは「1枚の重さ」
今回のデータを見ていて、一番印象に残ったのはここでした。
2025年度は、
処方箋枚数 -1.1%
なのに、
処方箋1枚あたり調剤医療費 +5.0%。
処方箋の「枚数」は減った。
でも、
1枚の「重さ」は増している。
その背景を見ると、薬剤料の増加があり、注射薬の大きな伸びがあり、内服薬では投薬日数の延長があります。
だから、
「処方箋が減った。薬局業界は終わりだ」
でもない。
逆に、
「調剤医療費が増えた。薬局は絶好調だ」
でもない。
どちらも数字の一部分しか見ていません。
処方箋枚数だけ追いかける薬局経営はどうなる?
もう一つ気になる数字があります。
厚労省の2024年度衛生行政報告例では、全国の薬局数は6万3,203施設。
前年より375施設、0.6%増えていました。
もちろん、これは2024年度末の薬局数なので、2025年度の処方箋枚数と単純に割って、
「1店舗あたり○枚減った」
とは言えません。
それでも、
直近まで薬局数は増えている一方、2025年度の処方箋総枚数は前年割れした。
という組み合わせは、少し気になります。
これまでのように、
「処方箋を何枚集めるか」
だけを追い続ける薬局経営が、この先もそのまま成立するのか。
国が対人業務や在宅、フォローアップなどを評価する方向へ動いていることも含め、この数字は今後の薬局のあり方を考える材料になりそうです。
まとめ|処方箋は減った。でも話はそれほど単純ではない
2025年度、処方箋枚数は1.1%減少しました。
2020年度以来、5年ぶりの前年割れです。
ところが調剤医療費は3.8%増加。
処方箋1枚あたりでは5.0%増加しています。
中身を見てみると、
「処方箋が減ったのに医療費が増えた」という不思議な現象ではありませんでした。
薬剤料が増えている。
注射薬が大きく伸びている。
内服薬では投薬日数が長くなっている。
つまり、
患者さんが薬局へ持ってくる処方箋の「枚数」は減っても、1枚あたりの「重さ」が増している。
そんな2025年度だったようです。
これが一時的な数字なのか。
それとも、
「処方箋枚数をひたすら追う薬局」から何かが変わり始めているのか。
2026年度以降の数字も、ちょっと追いかけてみたいと思います。
参考資料
今回の主要データは、2026年8月28日に厚生労働省が公表した「令和7年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」を使用しています。約7.5億件の調剤報酬明細書情報を集計した資料です。(厚生労働省)















